源信の著した『往生要集』を読み返しています。この本は、法然をはじめとする日本の浄土教の発展に大きな影響を及ぼしました。今月の「尼僧と学ぶやさしい仏教講座」で地獄のお話しをするのですが、日本人の「地獄」に対するイメージも、この『往生要集』に深く影響を受けていると言って良いでしょう。
源信の凄いところは、自分の主張の根拠となる仏典を「これでもか!」というほど細かく示しているおとです。源信が経蔵の中を走り回って典故を確認している様子が想像できて、ちょっと気の毒になるほどです。仏典に「検索」をかけれられる私たちはなんと幸せなことでしょう・・・いや、かえって勉強しなくなって駄目かな?
さて、この『往生要集』の中には、さまざまなことが書かれているのですが、タイトルにもあるように、「お浄土へ往生させてもらうには、どうすれば良いのか?」というマニュアル本と言っても間違いではないでしょう。
とりわけ臨終が近くなったときの「注意事項」が興味深いです。その注意事項の一つに、「病人の臨終が近づいたら、その人を別の場所に移して看取るのが望ましい」という指摘があります。
なぜなら、その病人が普段住んでいるところにいると、愛着のある「私のもの」や「思い出のもの」がたくさんあるので、現世に執着する心がどうしても強まってしまうからだそうです。源信は、この世への執着から離れ、穏やかにお浄土に往生することを勧めているのです。
病人を「無常院」と呼ばれる場所に移し、同じ信仰の仲間が看取ります。源信は、無常院に病人を移したら、その人の周囲を清潔に保ち、お香を絶やさず、花を飾るように勧めています。なんだか、ホスピスの話しをしているようですね。
「信仰の友」に見送られ、阿弥陀仏に迎え取られる臨終は一つの理想です。慈雲寺がそういう場を提供できたらいいなぁ・・・
◎今日の写真は中村元先生が丁寧に解説した『往生要集』の入門書です。文庫本ですから、いつでもどこでも読めて、おすすめです。