先日、「おいおい」と阿弥陀様が軽く頭を叩いて下さったような出来事がありました。
その日は朝から私は何度も腹を立ててしまうようなことがあって、「そんなこと常識だろうが!」と叫びたくなっていました。なんとまぁ、僧侶にあるまじき傲慢な態度でしょう。
腹をたてたまま所用で新幹線に乗ったところ、座席の前に新聞が置き捨てられていました。「なぜゴミ箱に捨てない!常識ないんか?」と、私はまたしても立腹。しかし、慌ててお寺を出てきたので、車内で読むものを持っていなかった私は、ちゃっかりその新聞を読み始めました。なんとまぁ勝手な私。
するとその新聞の文化欄に那智の参詣曼荼羅についての記事が出ていました。そこに書いてあったことを読んで、思わず赤面。常識がないのは私でした!
「曼荼羅は仏教の中でも特に神秘主義的な傾向の強い密教が、もっぱら僧侶が修行や儀礼に用いるために開発した。そのため一般人が目にする機会は想定されていなかった。ところが日本では曼荼羅が一般人のために制作されるという本来あり得ない事態が生じた。」と宗教学者の正木晃先生は書いておられました。
そうかぁ!今まで私の心に引っかかっていたいろいろな疑問が溶解していく感じでした。少し考れば、もともと曼荼羅は密教のものなのですから、当然と言えば当然。まさに「常識!」と誰かに言われそうなことでした。
私が属する浄土宗西山派(西山浄土宗)は、奈良の当麻寺の御本尊である当麻曼荼羅の絵解きをしながら布教してきた伝統があるので、曼荼羅が本来「一般人のものではない」ことをすっかり忘れていました。
朝から傲慢な態度で「常識だろ!」(まぁ、声には出さなかったのですが・・・)を心の中で振り回していた私に、阿弥陀様が「お前だって常識無しのことだらけだぞ」と優しく諭して下さったようなきがします。
新幹線の中に捨てられた新聞が造って下さった素晴らしいご縁。謙虚こそが善き縁を紡いで下さるのでしょう。
いつのまにか腹立ちはすっかりおさまっていました。那智の聖地のお力かもしれません。